FM三重『ウィークエンドカフェ』2015年10月31日放送

朝霧がゆっくりとふもとの集落に降りてくると、尾呂志の村に晩秋が訪れます。
道沿いには、無人のミカンの販売所が並び、温泉帰りの人たちが車を止めて買っていきます。
穏やかな里山の景色の中で、にぎやかな声が聞こえて来たら、そこが、御浜町尾呂志にあるさぎりの里。
日本の原風景が残っている場所でもあります。

今回のお客様は『さぎりの里』の広報担当の、芝崎裕也さん。
今、さぎりの里では毎日30軒ほどの生産者さんたちが朝早くから野菜を
収めに来てくれています。
ここの野菜がおいしいのは、寒暖の差。
朝、寒いなって思うくらいのこの気候が、ぎゅっと詰まったおいしい野菜を作ってくれます。

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   芝崎裕也さん(左)

然が素晴らしい尾呂志地区のおすすめは、なんといっても風伝おろし

夏は桃太郎岩のあたり、岩清水豚を育てている岩清水が流れこんでいる片側の上流が本当に綺麗です。
清流とはこのことをいうのかと、感激するほど。
冬に向けてひっそりとするこれからは、もっと透明度が上がり、紅葉も見頃となります。
風伝峠の奥の方に河瀬地区奥・・・僕らが河瀬奥と読んでいる場所があるのですが、風伝おろしの山の一番元というか源流の部分にあたるところなんです。
ここも紅葉が綺麗なんですが、みなさんが知らないスポットになると思います。

尾呂志地区は海岸から10キロあまり奥に入ったところになるので、どちらかというと山の風景が中心となりますが、なんといってもここは世界遺産が2つある地区なんです。
坂本の横垣峠と、『さぎりの里』の後ろにある風伝峠。
今はちょうど秋なので、この地の風物詩となっている風伝おろしが、ほぼ毎朝のように発生しています。
幻想的な景色が朝のうちに見られるということで、最近では全国からお客さんが来て、朝早くからカメラを構えています。
朝6時くらいが一番良い時間帯で、8時くらいにはもう終わっているんです。
遠くから来て見逃してしまい残念がっている人に、僕の携帯に入っている画像をお見せしたり、風伝おろしの発生のメカニズムを説明して、もう一度トライしてもらったり。
私は『さぎりの里』に花を出荷しているのですが、その時にお客さんに風伝おろしの説明をして今日の状態を話して・・・毎日1時間くらい『さぎりの里』にとどまっているという生活が続いています(笑)
一年の中で、一番豪快で100点満点クラスの風伝おろしを見られるのが、今の時期から12月にかけて。
一応年中出るんですが、今からが一番素晴らしいんです。

 

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茸もとれる尾呂志地区

尾呂志地区は古くから米の美味しいところとして知られています。
収穫から1月ほどたった今の時期からは新米を求めて、やはり県内外からたくさんの方がおろし米を求めて来てくれるのでありがたいですね。
さぎり茶屋では、このお米と岩清水豚を使ったメニューや本格的なフレンチなど、この地域の極上の食材を使ったお料理が食べられます。

実は先日、秋の味覚の王様の松茸が少し出ていました。
この風伝峠を挟んだ山々で・・・私もあまり場所を知らぬ一子相伝の世界なのです。
私は教えてもらう前に親が亡くなってしまったので、採れる場所を知らないのですが、実はこの界隈は、非常にたくさん採れる場所があるらしいのです。
きっと美味しかったのでしょうね・・・私は食べていませんが(笑)。
御浜町産の松茸も『さぎりの里』に並ぶことがあるんですよ。

松茸の時期の前に、樫の木の落ち葉から生える『早松(さまつ)』というきのこがあり、それも今年はたくさん採れています。
『早松』というくらいので、ほんのり松茸のような香りがし、コリコリして美味しいんですよ。
昔は天然のしめじなど、いろいろな種類のきのこが採れたそうなんですが、最近はきのこを取る人も高齢になったため、山に入りきのこ狩りをする人が減ってきました。
ぜひ山に入る人が増えて、『さぎりの里』にたくさんのキノコが並ぶようになって欲しいです。

 

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とまりやすい気質の人たちで、支えあう地域

尾呂志という地区はとても歴史が古いんです。
『花の窟神社』が日本最古の神社と言われていますが、そこから遷宮で本宮大社にお輿を持って移動中に、輿を下ろしたということで『尾呂志』と名づけられたと聞いています。
それから昔から風が強く、風伝の霧が「降りてくる」というところからの『尾呂志』。
『鈴鹿おろし』や『伊吹おろし』などと同じ語源ですね。
一年を通じて、夏は涼しく冬は寒く・・・。
確かに冬は寒いですが、冬野菜は寒さでしっかり身がしまっておいしく育ちます。
みなさん昔から一生懸命平地の少ないところでも田畑を耕して、稲や畑を作り、農耕しながら今に至っています。
地域そのものがまとまっているので、過去には『尾呂志米まつり』を地域を挙げてのイベントを行ったくらい。
1つにまとまりやすい気質なんですね。
なので、盆踊りにしても伝統芸能にしても、各地域地域を手伝いにまわったり。
昔ながらの、田んぼの『手間』という制度が続いているので、盆踊りに来てくれたら、次はその地域の盆踊りに行って踊る・・・おまつりも仲良く支え合っているんですね。
だから『さぎりの里』も地元の人たちを中心に、朝早くから農家のご年配の方がまじめに野菜を作って、それをお店に出し続けてくれるんです。
今、『さぎりの里』では毎日30軒ほどの生産者さんたちが朝早くから野菜を
収めに来てくれています。

 

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かな村づくりへの取り組みが、東海農政局長賞の2度の受賞へ

農林水産省事業の『豊かな村づくり』優良事例推薦地区となり、誇らしいことに二度目の『東海農政局長賞』を受賞しました。
10年ほど前にいただき、今回も地域全体を巻き込んだ村づくりの実践事例が高く評価され受賞、11月に名古屋まで表彰を受けに行くことになりました。
本当にみなさん、日々過疎化が進んでいく中で、それぞれの役割をしっかりと担ってくれています。
例えば地域の有志が作った団体『おろし夢あぐり』は、荒れつつある田畑を耕作して、三重県が作付けした『神の穂』という酒米を育て、さらに地元の企業さんと連携して酒づくりも行いました。
そして今年の3月には、第1回目の『颪(おろし)』という酒が完成しました。この秋には2回目の作付けや収穫も終わり、もうすぐ新しい酒米で2回目の新酒ができてきます。
やる気のある人が、この地域ならではの新しい活動を始めていたり、『さぎりの里』も会員さんが高齢化していく中で、御浜町も含めて、市長を巻き込んだ新しい会員さんを入れて、新たな製品の開発や商品の創出も含めてがんばっているということが評価されたのかな、と思います。
またこれから10年20年先、『さぎりの里』を盛り上げていくかというビジョンを踏まえて、行政と一緒になって新しい展開が望まれると思います。
寂れつつあるこの紀州地域の中に小さな集落が、まだまだゲンキに活動できているぞ・・・そんなところが評価されたのかもしれませんね。

世界遺産にもなっているこの原風景は、守らなきゃなりません。
その上でIターンの人たちや地域おこし協力隊など、新しい制度を使いながら、少子高齢化が進む中でも、何か新しいことができる環境を作っていきたいです。